2013/09/30

六本木クロッシング 2013 満田晴穂 「幽明」「円寂」 Mitsuta Haruo "Yumei" "Enjaku"

森美術館で開催中の六本木クロッシング 2013 アウト・オブ・ダウト展を見てきました。
この展示には自在置物作家の満田晴穂氏が参加しており、自在置物好きとしては見ておかなければ、ということで楽しみにしていました。

満田晴穂 「幽明」

満田晴穂 「幽明」

満田晴穂  「幽明」

作品は2点展示されており、こちらは「幽明」。ヒガンバナにジャコウアゲハが集っています。
実際に赤い彼岸花にはアゲハチョウが集まりやすいようです(参考 http://www.ntv.co.jp/megaten/library/date/05/09/0925.html)。
金工の技法による着色の黒と赤の色の対比もさることながら、こうした生態をふまえつつ、さらにアゲハチョウが毒を持つジャコウアゲハであることで同じく球根に毒のある彼岸花と共通性を持たせているところなど手が込んでいます。

DSCN0504

明治〜昭和の初めにかけて輸出工芸品として自在置物を多数製作した高瀬好山の作品にも「十二種昆虫」の中に赤銅を着色したクロアゲハ(上の写真)、また銅を同じく伝統の技法で赤く着色して椿の花をリアルに再現した作品もあることから、そうした過去の作品へのオマージュと感じられるところもあります。

満田晴穂  「円寂」

もう一点は標本壜にガガンボがとまる「円寂」。
死体である標本を入れるための容器と儚げな姿のガガンボの対比。
「幽明」とは対照的に一体の虫だけですが、非常に繊細な脚も当然のことながら可動になっており自在置物としての存在感を示しています。

満田晴穂  「円寂」

こちらでより多くの写真が見られます。
(本ブログ内の展覧会の写真はクリエイティブ・コモンズ 表示 - 非営利 - 改変禁止 2.1 日本 ライセンスでライセンスされています)

解説でも触れられていますが、生と死について考えさせるような展示であることが一見してわかります。刀装具などにも見られるような昆虫モチーフはもともと武士の死生観を反映したものであることも意識させられます。

江戸期の自在置物は平和な時代の到来による甲冑の需要の減少を背景に大名家などへの贈り物として発達したといわれています。明珍派は鉄打出しの技術で武具、馬具から火箸、花瓶その他まで多岐にわたって製作しており、恐らく自在置物も優雅な手すさびの類ではなく甲冑師が何とかして生き残っていくためにその技術を注ぎ込んだのではないかと思います。明治に入り武士の時代が終焉を迎えると甲冑師は職を失いますが、自在置物は高瀬好山により輸出工芸品として活路を見出しその技術は間接的に受け継がれて行きます。第二次大戦により再びその技術は途絶えかけ、ほとんどその存在も忘れられていたところから今また現代美術として甦ったという変転の歴史も非常に興味深いところです。時代の変化により工芸品としての立場が変わりつつも継承されていった製作技術自体にも、姿を変えて生まれ変わる昆虫や、環境の変化に適応して生き残る道を探っていく生命のイメージが奇しくも重なります。

高瀬好山の自在置物「鯉」を取り上げたTV番組の中で冨木宗行氏(好山工房で自在置物を制作してきた冨木家の当主、東京国立博物館所蔵の銀製伊勢海老も氏の手による)が「自在置物は作ったものではあるが、作ったのではなく『生まれる』という感じを感じられなければ面白みがない」と語っていましたが、そのような作り手の意識もまた受け継がれてきたものなのではないかと思います。
江戸時代において鉄製としては他に類を見ないほどの写実性を獲得した自在置物は、明治期に高瀬好山により輸出工芸品としての道を歩み出したときには色金を多用し色までも実物に近づけていきました。さらに現代では極限まで写実性が追求されていることも単なる技巧への傾倒ではなくそうした意識の表れでもあり、確たる用途を持たず近年まで名称すら無く工芸史上の位置付けも定かでなかったこの異色の工芸品が時代の変化による危機を乗り越えることを可能にした要因だと感じます。

前述の冨木宗行氏にお会いする機会があり、そのとき伺った話によると高瀬好山も初期は苦しい時代があったそうです。自在置物を工房で量産し成功を収めた好山ですが、やはりそれなりの苦労があったことが偲ばれます。近年神坂雪佳図案、高瀬好山制作の作品「花車」が京都国立近代美術館の所蔵になり公開もされましたが、漆芸、陶芸、染織家らも制作に参加したこの作品は宗行氏によると宮内庁に納められたさらに大きな作品の縮小版であるとのことで、当時の京都の工芸界での好山の影響力を感じさせます。またローマ法王に献上された自在置物の作品もあったそうで、おそらく1942年にバチカンと国交樹立したときに贈られたものと思われます。すでに好山は没しており戦時中でもありましたが、まだ献上品にするような作品を作る余力があったことや、このような形で自在置物が歴史に関わっていたのも興味深いことです。

高瀬好山の工房による制作の他にも明治26年のシカゴ万国博覧会には板尾新次郎が自在置物を出品しており、自在置物を鍛金科に取り入れようとしていた岡倉天心は東京美術学校の教師として彼を招こうとしました。残念ながらそれは実現しませんでしたが、岡倉天心もまた継承されるべき技術として自在置物を見ていたことは注目すべきでしょう。

ともすれば動く面白さ、リアルさだけに目が行きがちな自在置物の、その特性を生と死を感じさせるものとして捉え、さらにモチーフにした生物の実際の生態や、人間との関わりの中で生まれたイメージをも含ませることにより重層的に多様な意味を込めた表現ができるということをこれまで以上に強く感じる展示でした。自在置物という工芸の辿った歴史を知ることでその表現にさらに深みを感じることができると思います。海外に流出した作品が多く国内で目にする機会が増えたのはごく最近のことなのでその歴史にまで思い至る人はまだ少数かもしれませんが、現代に新たな形で示された自在置物をそうした視点からも見る人が増えていくことを願っています。今回の六本木クロッシング展のテーマは非常に多くの要素を含んでいますが、そのテーマと重なる部分をより感じとることにも繋がると思います。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2012/12/10

清水三年坂美術館「鍛鉄の美 - 鐔、鐙、自在置物」

Img_0496

京都、清水三年坂美術館にて開催中の「鍛鉄の美 - 鐔、鐙、自在置物」を見てきたのですが詳細は別ブログの方に書いておりますので、よろしかったら御覧下さいませ〜

夏に参加した、同じく清水三年坂美術館主催の自在置物の特別鑑賞会についての記事もそちらにありますので是非あわせてどうぞ〜

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2012/05/13

青森「京都・清水三年坂美術館展」龍の自在置物 Dragon Jizai Okimono by Myochin Kiyoharu

青森県立郷土館にて6月より『京都・清水三年坂美術館展』が開催されます。
会期 2012年 6月8日(金)~7月16日(日・祝)
http://www.toonippo.co.jp/blog/kyoudokan/
http://www.atv.jp/kiyomizu_sannenzaka/index.html
金工、七宝、蒔絵、印籠、京薩摩、自在置物を中心に約120点をテーマごとに展示するとのことです。

Iron_dragon1

同展紹介ホームページにて昨年末Bonhamsのオークションに出品されていたものではないかと思われる明珍清春作の龍の自在置物が確認できました。もしそうなら初公開なのではないでしょうか。小さめの作品ですが優品なので是非見てみたいものです。

(追記 後に清水三年坂美術館に展示されたのを見ましたところ無銘とのことでした)

明珍清春の龍は大英博物館にも同様の作が所蔵されています。
http://www.britishmuseum.org/explore/highlights/highlight_objects/asia/a/articulated_model_dragon.aspx

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2012/03/05

高瀬好山 自在置物「鯉」Jizai Okimono Carp by Takase Kozan

Kozan_carp

「美の巨人たち」http://www.tv-tokyo.co.jp/kyojin/index.html(TV東京系)にて高瀬好山作 「自在置物 鯉」がとりあげられます…! 3月10日(土) 22 : 00-22: 30

京都の清水三年坂美術館所蔵のこの鯉、少し前に某鑑定団にて同じく好山の鉄製の蛇が出た際にちょっと映っていたのですが、知る限りでは図録や展示などで見たことがなかったので注目しておりました…! X線撮影などで構造にも迫っているようなので非常に楽しみです。

http://sushifactory.cocolog-nifty.com/blog/2011/08/jizai-okimono-1.html
以前に書いた台湾での自在置物の展示に出ていた鯉は、高瀬好山が金工を学んだ冨木伊助の父で「宗一」と称した初代伊助作のもののようです。

Munekazu_carp

鰭の形状などに共通点が見られて興味深いです。


0300948

http://www.internationalauctioneers.com/#/lot/show/672519/lot/list/3195/

こちらは好山工房の工人、宗義(むねよし)銘の鉄製の雉です。
東京国立博物館の蛇もこの宗義の作ですね。宗義銘のものは鉄製の作品が多いようで、たまに明珍と混同されて明珍宗義とされてしまったりしているようです。

図録や展示で見られる鳥の自在置物は明珍系の鷹ばかりなのですが、この雉は造形の優美さではそれらを上回っていると思います。可動部分こそ首や尾羽に限られてしまっているものの、それと引き換えの写実的で滑らかな表現は素晴らしいです。


D1868168x


好山工房は自在置物だけでなく、蘭などの花の置物やその他いろいろな金工作品を制作していました。

ちょうどこれから開催されるクリスティーズのオークションには好山製の御所車の作品が出品されるとのこと。
http://www.christies.com/lotfinder/an-elaborate-gold-silver-and-shakudo-model/5538521/lot/lot_details.aspx?from=salesummary&intObjectID=5538521&sid=0d91462b-96e7-476e-b4d4-0aaf6b7fba70

An_elaborate_gold_silver_and_shak_2

これも細部まで精密に再現されておりすばらしいです…!
エスティメイト $120,000 - $180,000 となっていますがそれも頷けます。

オークションは3月21日だそうですが、こちらの結果もちょっと楽しみです。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2012/02/01

New Year Meeting 2012

日曜日にお台場のニューイヤーミーティングに行ってまいりました…!
恒例、バブルカーのブース今回はこんな感じ

13157768_1511066127_190large1

13157768_1511066119_250large



目玉はやはりレアなフランスのマイクロカー、 Inter(アンテル)175A…! 日本にあるのはこれ一台だけでしょう。間近で見られて感激です!

13157768_1511066441_178large

13157768_1511066342_99large


ゴッゴモビルも実物は初めて見ました。しかもその隣は…

13157768_1511066368_95small


キューベルワーゲンですね。

13157768_1511066363_196small_2

さらにその隣にはケッテンクラート…

13157768_1511066162_11large


イセッタ、アンテル、メッサーシュミット、ゴッゴモビル、キューベルワーゲン、さらにケッテンクラートが並ぶ光景はなかなか壮観でしたね〜




| | コメント (0) | トラックバック (0)

2012/01/25

京都行き

先日、清水三年坂美術館 企画展関連イベントの七宝の特別鑑賞会に行ってまいりました。

Sippo1

並河靖之ほかの素晴らしい作品を手に取って見るという、希有な体験ができる鑑賞会でした(しかし触りまくって指紋つけまくるのはやはり気が引けましたねえ…)。
驚くほど細かい植線にとんでもない手間をかけて釉薬を入れていったことを考えると言葉を失います…。鑑賞会の後に美術館の方にも行きましたが、もちろんそちらの作品の数々も大変素晴らしかったです。

さて、清水三年坂美術館といいますと最近某鑑定団に高瀬好山の蛇の自在置物が出た際に作品解説の協力をしていました。
880万と付いた蛇の鑑定額については思う所もあるのですが、正直そのへんはわりとどうでもよくて、見所は別のところにありました…!
いや〜良いものを見せていただきました…!

さらに美術館に新設の彫刻コーナーには穐山竹林斎(あきやまちくりんさい)の木彫の龍の自在置物が出ていました…!
http://www.mus-his.city.osaka.jp/news/2008/shinshuzo_ryu.html
上記リンクの記事にあるように、かなり前にこれも鑑定団に出ております(確かそれで初めて自在置物の存在を知ったように記憶しています)。
記事が書かれた時点では大阪歴史博物館に寄贈されたこの一点しか実物を確認できていなかったようですが…

こういう作品をこれといって宣伝するでもなく、実にさりげなく展示しているのは流石としか言いようがありません…

| | コメント (0) | トラックバック (0)

«Museum Kunstpalastの国貞、国芳の展示